ソーシャルアントレプレナー

ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の独創性

機械や新素材などの技術開発を進めるスタートアップ企業に資金が集まっている。日経産業新聞がまとめた2019年上半期(1~6月)の調達額ランキングでは、首位にロボットの制御技術を開発するMUJIN(ムジン、東京・墨田)が入った。昨年下期の調査では金融系の「フィンテック」やIT系が上位を占めたが、今回は「実業系」へのシフトが鮮明だ。

2018年下期の金融系から転換

日経産業新聞のスタートアップ金融面に掲載した「調達File」を再構成し、スタートアップ各社の調達額をまとめた。上位20社のうち、宇宙・ロボット・ドローン関連や素材・医療関連の事業を手がけるスタートアップが7社入った。 首位はロボットの制御技術を開発するムジンだった。2月に三井住友銀行から最大75億円の融資枠を受けている。開発を担当するエンジニアの採用を強化するほか、ロボットから収集したデータを活用する新たな事業の開発などに充てる。 ムジンは産業用ロボットの「知能」を高める基盤システムを開発している。同社のシステムとロボットを組み合わせると、動作を事前に教えなくても自ら計算してロボットが動くようになり、膨大な種類の商品を扱う倉庫にロボットを導入しやすくなる。 中国・広州に子会社を設立して、海外市場の開拓にも乗り出す。 2位は新素材開発のスパイバー(山形県鶴岡市)が入った。三菱UFJ銀行などから50億円の協調融資(シンジケートローン)を組成した。約10年の研究開発を経て新素材の量産技術を確立しており、資金はタイでのプラント建設に充てる。スパイバーの繊維は強度や伸縮性に優れるとされ、自動車の車体や人工心臓など幅広い用途への応用が期待されている。

メガバンクから資金調達

2019年上期の調達ランキングではメガバンクなどから資金を調達する動きが目立つ。ムジンは三井住友銀行、スパイバーは三菱UFJ銀行などから資金を借りている。 スタートアップは創業から数年間は先行投資が膨らみ、赤字が続く場合が多い。このため銀行から融資を受けるのは難しいとされてきた。 結果的に資金調達の手段はベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けるなど、新株発行を伴う資金調達(エクイティファイナンス)が中心になっていた。 ムジンやスパイバーなど研究開発や量産に多額の資金が必要な「実業系スタートアップ」が借り入れに成功したことは、メガバンクの姿勢の変化を示唆している。 背景にあるのはマイナス金利に伴う運用難だ。早い段階から融資を通じて関係を深め、上場時には系列の証券会社が上場時の主幹事を獲得する思惑もあるとみられる。 スタートアップ側も銀行との関係を重視し始めた。ムジンの滝野一征最高経営責任者(CEO)は「銀行融資の活用で高い持ち株比率を確保でき、機動的な意思決定がしやすくなる。もっと事業を成長させてから上場したい」と話す。上場を急がずに事業を拡大したいスタートアップにとっても利点がある。 3位のピクシーダストテクノロジーズ(東京・千代田)は5月にINCJ(旧産業革新機構)や凸版印刷などから約38億円を調達したと発表した。これに先立ち、商工組合中央金庫から10億円の融資を受ける契約も結んでいる。ピクシーダストは筑波大学発のスタートアップで、光や音の波を狙った場所に届ける技術に強い。資金は研究拠点への投資などに充てる。

宇宙やドローンに注目

「実業系」の中でも宇宙ビジネスやドローンは特に有望株だ。宇宙ごみを除去する衛星を開発するアストロスケールホールディングス(東京・墨田)はINCJなどから約33億円を調達した。20年初めに予定する実証衛星の打ち上げに向け研究開発を加速する。米コロラド州に拠点を置き、米政府機関などで進む宇宙ごみ除去の国際ルール整備にも参加する方針。 ナイルワークスは農業用ドローンの開発を進める 画像の拡大 ナイルワークスは農業用ドローンの開発を進める ナイルワークス(東京・渋谷)は農業用ドローン(小型無人機)を開発し、INCJや住友化学などから約16億円を調達し、農薬の散布や穀物の生育促進に使うドローンの研究開発を進める。

■「取捨選択」の気配 上位企業の調達規模は18年下期と比べて大きな差はなかったが、下位企業の調達額は全体に小粒だった。複数の大手企業やVCが注目度の高いスタートアップへ集中的に資金を投入し、それ以外の企業は調達額が小さくなる「取捨選択」の気配が強まっている。 2019年上期ランキングでは世界的な「脱プラスチック」の流れを反映し、代替素材を手掛ける企業も注目を集めた。10位のTBM(東京・中央)は石灰石を原料にしたプラスチック代替の新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発し、SBIグループやJR東日本スタートアップなどから約15億5000万円を調達した。ライメックス量産工場の建設や研究開発などに資金を充てる方針。 18年下期ランキングでは金融とIT(情報技術)を融合した「フィンテック」など金融系スタートアップが上位を占めたが、19年上期のランキングでは金融系は1社にとどまった。売掛債権を現金にするファクタリングのOLTA(オルタ、東京・港)が7位になり、フィンテック関連は20位以内に入らなかった。 スタートアップ各社が調達に成功した金額の多寡は、機関投資家や大手企業がどの業種に注目しているかを映す意味合いがある。ロボやドローンが人気を集めた背景は人手不足だろう。人工衛星などは、宇宙ビジネスで「官から民へ」の流れが強まっているためとみられる。