環境危機と環境保全

地球環境問題

自然破壊,環境汚染または公害など人間活動によって自然や都市などの環境がそこなわれる現象をいう。人間は環境の影響を受けながら生命を維持しているが,同時に生活活動のなかで環境にさまざまな変化を与えている。その変化が一定限度をこえて生態学的均衡に影響を及ぼす状態が環境破壊である。環境破壊の例としては,森林破壊や酸性雨,オゾン層の破壊,大気汚染,地球温暖化,土壌汚染,海洋汚染,水質汚濁などがあげられる。

地球温暖化問題と国際政治の構造

地球温暖化が国際的な問題としてクローズアップされだしたのは、自然科学的な知見の整理・確認としては、1985年のフィラハ(オーストリア)会議が最初であり、国際政治の舞台へ出る契機となったのは、88年6月にカナダ政府が主催した「大気変動に関する国際会議」である。この会議は、トロント・サミットの開催直後、アメリカ航空宇宙局(NASA(ナサ))が温暖化を裏づけるデータを提出した時期に開催され、48か国の政府関係者と300人以上の科学者が参加し、初めて二酸化炭素(CO2)の排出量に関しての全地球的な目標を呈示した。  これ以降、地球温暖化問題は国際政治上の課題となり続けるのであるが、より具体的に進みだすのは、88年11月に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第1回会合が開かれてからである。このときから、地球温暖化問題をめぐる国際政治が現実のものになっていくのである。[植田和弘]

地球温暖化

地球温暖化防止条約(気候変動枠組条約)

1992年6月,国連環境開発会議で調印され,1994年3月に発効した二酸化炭素排出抑制のための条約。気候変動枠組み条約とも。条約締結国会議がCOP(Conference of the Parties)である。同条約は二酸化炭素の国別発生量を,2000年時点およびそれ以降も,1990年のレベルに抑制するよう求めている。しかし,この目標設定には全世界の二酸化炭素排出量の22%を占めるアメリカが反対したため,各国は拘束力のない目標〈1990年の水準に戻すことをめざす〉という表現に改め,アメリカの加盟を確保した。1995年3月から4月にかけて〈気候変動枠組み条約第1回締約国会議〉が170ヵ国代表の参加を得てベルリンで開かれ,1.先進国が2000年以降,例えば5年ごとの一定期限を設けて削減目標値を定める,2.1997年の第3回締約国会議に数量化された抑制・削減目標を含む議定書,または他の法定文書の採択をめざす,ことを内容とする〈ベルリン決議〉を採択した。1996年,第3回締約国会議の開催は〈1997年12月,京都〉と決定されたが,日本を含む15の先進国のうち,2000年時点の排出量を1990年レベルに抑制することができると報告しているのは5ヵ国である。日本は1998年10月,地球温暖化対策推進法を成立させたが,日本が1990年10月に決定した〈地球温暖化防止行動計画〉で掲げている〈2000年までに1990年レベルでの安定化〉という目標は達成できない見通しとなり,第3回締約国会議開催国として苦しい立場に立たされた。1997年の第3回締約国会議(京都会議)は温室効果ガス(二酸化炭素にメタン,亜酸化窒素,代替フロン2種,六フッ化硫黄の6種類)の排出量を2008年―2012年に先進国全体で1990年レベル比5.2%削減するとの議定書(京都議定書)を採択。日本6%,アメリカ7%(アメリカは離脱を表明),EU8%といった削減内容であるが,森林による吸収効果を計算する〈ネット方式〉の導入,〈排出権取引〉の容認,途上国の将来の削減案の削除など多くの課題を残した。さらに京都議定書の枠組みは,スターン報告など地球環境をめぐる,その後の実態予測からみてきわめて不十分なものであることは明らかで,2009年発足したアメリカオバマ政権がアメリカの地球環境問題への取り組みを劇的に転換させた。日本も2009年9月,鳩山由紀夫首相の国連演説で,2020年までに温室効果ガスを1990年比25%削減という,いわゆる鳩山イニシアチブを提言。ポスト京都議定書の各国削減目標設定と国際的協力体制構築のための議論の進展が期待された。しかし,2009年12月にコペンハーゲンで開催された,COP15(第15回締結国会議)では,途上国と先進国の溝は埋まらず,議論は持ち越された。2010年にメキシコのカンクンで開かれたCOP16では,先進国は温室効果ガスの2020年までの削減目標,途上国は削減行動を自ら定めて提出し,実施状況を2年に1度報告して各国の評価を受ける,という合意が,参加約190ヵ国によって採択された(カンクン合意)。達成できない場合の罰則などは明記されていないが,先進国の報告書提出の最初の期限は2014年1月1日と定められた。2012年にカタールで開催されたCOP18では,京都議定書の第二約束期間設定のための議定書の改正案が採択された。主な内容は,第二約束期間の長さを2013年1月1日から2020年12月31日の8年とすること,各国の削減目標について2014年までに再検討を行うということである。主要参加国は,EU,オーストラリア(2007年京都議定書批准),参加しない主な国は,京都議定書を批准していないアメリカ,2011年末に脱退したカナダ,第二約束期間において削減目標をもたないことにしたロシア(2005年京都議定書批准),日本,ニュージーランドである。しかしここで削減義務を負わない,とした国々も,カンクン合意に基づいて,2020年以降のポスト京都体制をにらみながら自ら目標を設定して削減に取り組むことになっている。日本は2011年3月の福島第一原発事故で,エネルギー政策全般を根底から再構築しなければならない状況に追い込まれ,2012年12月に発足した安倍政権は鳩山イニシアチブをはじめこれまでの日本の取り組みをゼロベースで見直すと表明。主要締結国が,2020年以降の枠組みに向けてCOP19(2013年11月ポーランドで開催)〜COP21(2015年フランスで開催予定)にかけて議論・最終合意を目指している状況で,今後どうするかが課題となっている。日本が掲げる当面の目標は〈2020年に2005年比3.8%削減〉だが,排出量は増え続けている。欧州委員会は削減目標を〈気温上昇を工業化以前と比べて2度未満に抑えるという国際目標に対して公平に貢献できる水準〉とし,日本に対して,2030年に2010年比30%前後の削減が必要との見方を示している。アメリカは2025年に,2005年比26〜28%減という目標を設定している。2020年以降の温暖化対策の枠組みが決められるCOP21に向けて,主要国間の目標設定と調整が注目されている。
(出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

ノールトベイク宣言

地球温暖化問題に対する国際的取組みの推進を目的とした宣言。 1989年 11月にオランダの近郊ノールトベイクにおいて 68ヵ国の参加のもとに開催された「大気汚染と気候変動に関する閣僚会議」で採択された。 (1) 二酸化炭素 ( CO2 ) などの温室効果ガスの排出を安定化させる必要性と先進国が率先してその達成に取組むことについて合意し,その具体的な目標水準について気候変動に関する政府間パネル IPCCで検討を行うこと,(2) 世界の森林減少に歯止めをかけ,21世紀の初めには世界の森林面積を年間 1200万 ha純増させることを暫定目標とし,その実現可能性について IPCCで検討すること,(3) 開発途上国における対策の支援のために資金供給の拡大や新たな仕組みを検討すること,(4) 気候変動枠組条約を遅くとも 92年までに締結するよう目指すことなど,その後の地球温暖化対策の方向を決める重要な内容が盛込まれた。
(出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 )

地球温暖化

石油・石炭などの化石燃料の大量使用などによって地球大気の温室効果が進み,気温が上昇すること。温室効果の中心となる物質は化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素,メタン,フロン,亜酸化窒素などである。とくに二酸化炭素は,1991年時点の全世界の排出量が61.9億tC(炭素換算トン)と推定され,1950年から約4倍に増大している。1880年代からの100年間に地球の平均気温は0.3〜0.6度上昇,これに伴い海水面も海水の熱膨張などによって10〜20cm上昇した。《気候変動に関する政府間パネル》(IPCC)の予測によれば,大気中の二酸化炭素が現在のペースで増加すれば,21世紀末に平均気温は約3度上昇し,海水面は30cmから最高で1m上昇することになり,いくつかの島嶼(とうしょ)や都市の低地部では,何千万人もの住民が移住を余儀なくされる可能性もある。また世界中の生態系に影響を与え,異常気象が発生すると考えられている。2006年英国のニコラス・スターンが英国政府に提出したスターン報告では今世紀末まで温暖化を放置すれば世界のGDPの2割に相当する巨額の損失を被るという報告がなされている。発展途上国と先進工業国の経済的・政治的利害の対立等があり,地球環境問題の中で最も解決の難しい問題だが,解決のための国際的協調の枠組み作りが緊急に求められている。とりわけ経済成長で世界を牽引する,中国,インドの二大国の動向が鍵といわれる。
(出典 株式会社平凡社百科事典マイペディア)

オゾン層

上空大気中にあるオゾン量の多い領域。地上高度10ないし15キロメートルより始まり、20~25キロメートルでもっとも数密度(分圧)が高くなる。それ以上の高度では、高さとともに緩やかに密度が減り、高度50キロメートルまで続く。オゾン層の密度や高度分布は、緯度と季節により規則的に変化する。[小川利紘]
オゾン層の役割
オゾン層は地上生物の生存にとって欠かすことのできない存在である。地球に降り注ぐ太陽の紫外線(紫外光ともいう)を上空で吸収し、地上生物が有害な紫外線を浴びないよう保護しているからである。波長310ナノメートル以下の短波長紫外線は生物細胞の核酸を破壊するが、この紫外線に対して、オゾン層の紫外線吸収効果が有効に働く。しかし、吸収端の波長310ナノメートル付近では、その効果は完璧(かんぺき)ではなく、紫外線は一部地上に降り注ぎ、生物に損害を与える。これに対し生物は種々の防御機能を備えている。この紫外線の人体に及ぼす影響には、損益両面が知られている。皮膚癌(がん)の誘発と皮下でのビタミンD生成がそれである。地球上に漏れ込む太陽紫外線の量は、上空のオゾン量の多少によって敏感に変化する。したがって、オゾン層は地上の紫外線照射量を左右する環境因子として重要である。[小川利紘]
オゾン層の生成と発達
オゾンは酸素原子3個からなる分子である。大気中で紫外線や放電などの作用により酸素分子が原子状の酸素に壊され、この酸素原子が酸素分子と結合してオゾンになる。オゾン層では、波長240ナノメートル以下の短波長太陽紫外光が、酸素分子を壊す役割をしている。オゾン層は地球大気のように酸素を多量に含む大気に特有のもので、他の惑星には存在しない。  地球大気の酸素は生物の光合成作用によってつくられたものであるから、オゾン層は生物自身がつくりだした太陽紫外線への防壁といえる。地球の歴史において、初期段階では酸素の量は少なく、オゾン層は貧弱で、地表は有害な紫外線にさらされていた。一方水中は紫外線から保護されていたので、そこで生命が発生し、光合成が活発になるにつれて大気中の酸素が増え、しだいに上空のオゾン層が発達した。そして紫外線に対する防止効果が有効に働き出すようになると、陸上が生存に適した環境となり、生命活動の舞台は陸に移り大きな発展を遂げることになった。このようにオゾン層の発達と生命活動との間には、密接な相互関係があったと考えられている。大気中の酸素量がどの程度にまで増えれば、オゾン層の紫外線防止効果が有効になり、陸上生物の生存が許されるようになるのだろうか。理論計算によると、必要なオゾン層をつくるには現在量の100分の1程度の酸素が大気中に存在すれば十分であるという。このような条件が実現した時期としては、陸上植物が出現した古生代中ごろとするのが妥当であろう。[小川利紘]
オゾン層の気象における役割
オゾン層は大気構造あるいは気象学上からも重要な存在である。オゾンの吸収する太陽紫外線のエネルギーは、上空大気を加熱して、気温の逆転構造をつくりだす。すなわち成層圏の形成はもっぱらオゾンの加熱効果によるものである。オゾンの大気加熱効果は緯度による差異があるので、この差を解消すべく成層圏大気においても大気の大規模な循環運動がおこる。この大規模循環は下層の対流圏のそれと一体となっており、これによってオゾンは低緯度から高緯度に運ばれる。そのため、オゾン生成のもっとも盛んな太陽直下の低緯度上空よりも、高緯度上空のほうが高密度となる。また成層圏におけるオゾン輸送は春にもっとも活発となるため、季節でみるとオゾン量は春に多く、秋に少ない。大気の大循環は気候を決定する要因の一つであるが、オゾンが大気大循環と互いに影響しあっていることから、オゾン層は気候決定因子として重要である。またオゾンは赤外熱放射を強く吸収、放出するので、大気の熱放射にも影響を与え、この点においても気候決定因子として働く。[小川利紘]
オゾンの消失反応
オゾンは太陽可視光と紫外線によって速やかに分解される。しかし、この際生じた酸素原子はただちにオゾンを再生するので、この過程では正味のオゾン消失はおこらない。オゾンの消失につながる反応は、酸素原子とオゾンとの反応であるが、これは比較的遅い。これに加えて、窒素酸化物、水素酸化物、塩素酸化物、臭素酸化物などとの反応がオゾンを壊す。これらの酸化物はオゾンに比べ微量な気体成分であるが、触媒反応サイクルによって、効率よくオゾンを壊すことができる。太陽紫外線の作用によってつくられたオゾンの生成量は、このようにして消失するオゾンの量と最終的にはつり合いを保っており、その結果、安定したオゾン層が形成されている。[小川利紘]
汚染気体とオゾン層
種々の汚染気体によってオゾン層のつり合いが乱される可能性が1970年代から問題となった。成層圏を飛行する超音速航空機(SST)の排気中の窒素酸化物、あるいは高空核爆発の際生じる窒素酸化物のように直接成層圏に投入される物質がまず注目された。ついでスプレーや冷凍機などに使われるクロロフルオロカーボン類(CFC、通称フロン)、消火剤として使われる四塩化炭素(テトラクロロメタン)およびハロン、洗浄に使われる1・1・1‐トリクロロエタンなどのように、地上で放出された物質が成層圏に拡散し、塩素酸化物・臭素酸化物に変わる場合が問題とされた。これらの汚染気体が増えると、オゾンのつり合い濃度を下げる作用がある。したがって汚染状態が長期的に続くと、オゾン量が減少し、地上の紫外線照射量が増える。その結果、皮膚癌発生率の増加、作物の収量減、生態系への悪影響などが現れる。また気候への影響も考えられる。  成層圏のオゾンは、大気の大規模な乱れに伴って下層の対流圏に拡散し、オゾンを供給している。オゾン密度の高い気塊が成層圏から対流圏に降下して、一時的に対流圏のオゾン密度を高める事例がしばしばおこる。この影響は地表付近にも及ぶことがあり、大都市から遠く離れた地域で、ときおり高いオキシダント濃度が出現するのは、この影響によるものと考えられる。[小川利紘]
オゾン層の保護
1980年代になって南極大陸上空にオゾンホールが発見され、その原因が、塩素酸化物・臭素酸化物によるオゾン破壊作用と南極域の特殊な気象条件であることが明らかになり、85年には国際的にオゾン層を保護するためのウィーン条約が採択された。87年には、フロン等のオゾン層破壊物質を国際的に規制するモントリオール議定書が採択され、その後数回の改正・調整を経て、フロン等の生産は、先進国では全面禁止、開発途上国でも1・1・1‐トリクロロエタンを除き2009年末で全面禁止となる。またフロンの代替品として使われているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)と燻蒸(くんじょう)に使われる臭化メチル(ブロモメタン)も全面的に廃止される予定である。こうした国際規制措置によって、大気中の塩素・臭素総量は2002年現在横ばい状態になっている。しかし、全地球的なオゾン層の長期減少傾向および南極大陸上空のオゾンホールの原状回復はこれからであり、汚染気体とオゾン層の変化は今後も監視を続けていく必要がある。[小川利紘]
『環境庁オゾン層保護検討会編『オゾン層を守る』(1989・日本放送出版協会) ▽ジョン・グリビン著、加藤珪訳『オゾン層が消えた』(1989・地人書館) ▽島崎達夫著『成層圏オゾン』第2版(1989・東京大学出版会) ▽川平浩二・牧野行雄著『オゾン消失』(1989・読売新聞社) ▽島崎達夫著『地球の守護神 成層圏オゾン――なぜ減る? 減るとどうなる?』(1989・講談社) ▽岩坂泰信著『オゾンホール――南極から眺めた地球の大気環境』(1990・裳華房) ▽小川利紘著『大気の物理化学――新しい大気環境科学入門』(1991・東京堂出版) ▽通商産業省基礎産業局編『改正オゾン層保護法』(1991・ぎょうせい) ▽通商産業省基礎産業局オゾン層保護対策室監修『オゾン層保護ハンドブック』(1994・化学工業日報社) ▽環境庁地球環境部監修『オゾン層破壊――紫外線による健康影響、植物・生態系への影響』(1995・中央法規出版) ▽杉光英俊著『オゾンの基礎と応用』(1996・光琳) ▽松本泰子著『南極のオゾンホールはいつ消えるのか――オゾン層保護とモントリオール議定書』(1997・実教出版) ▽泉邦彦著『地球温暖化とオゾン層破壊』(1997・新日本出版社) ▽リチャード・E・ベネディック著、小田切力訳『環境外交の攻防――オゾン層保護条約の誕生と展開』(1999・工業調査会) ▽関口理郎著『成層圏オゾンが生物を守る』(2001・成山堂書店)』
(出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

海洋汚染問題

人間活動によって直接あるいは間接に、海洋環境に持ち込まれた物質あるいはエネルギーが、生物資源、人間の健康および水産漁業などの活動に有害な影響を及ぼし、また海水の本来の性質や海洋環境の快適さを損なう場合を海洋の汚染という。これは海洋汚染にかかわる国連関係機関合同の、海洋環境保護の科学的事項に関する専門家合同グループGESAMP(The Joint Group of Experts on the Scientific Aspects of Marine Environmental Protection)によって定義されたものである。これらの原因となるものが汚染物質である。洋上で直接船舶等から放出されるもののほかに、陸上で環境に人為的に放出された汚染物質には、大気中に拡散するもの、さらに大気により外洋に運ばれるもの、地下水、河川水などで河口域、内湾、内海に移送され、沿岸海域を経て外洋にまで達するものがある。地球全表面の約4分の3の大きな面積を占める海洋の汚染は、陸上起源によるものが船舶起源よりはるかに大きくて、海洋汚染全体の約80%を占めている。最近になって新しいタイプの陸起源の汚染が海洋環境の生物資源や生態系に重大な損害を与え始めていることがみいだされ、陸起源の海洋の汚染が改めて注目されている。[鈴置哲朗]
海洋汚染の問題点
河川水などによる移送の過程で、汚染物質の一部は底質中へ取り込まれ、また、内湾や内海などでは外洋の水との混合、希釈によって移動拡散する。このことは逆に、底質や外洋水自体の汚染レベルが相対的に徐々に上昇することを意味する。内湾、内海など沿岸水中の物質の平均的な滞留時間は、せいぜい数か月から長くても数年程度と見積もられている。沿岸域では環境の悪化を生じた場合にも、汚染物質の流入規制をして自然の浄化過程によるか、浚渫(しゅんせつ)などの近代技術を併用するかなどして環境の回復を図ることが不可能ではない。一方、外洋は、陸から100~1000キロメートルを超えて広がる広大な部分で、そのなかでの物質の滞留時間は100年とか1000年という長い時間尺度をもつようになる。これは、外洋水が沿岸水に比べてはるかに多量の物質を長時間にわたり蓄えうる能力をもつことを、いいかえれば短時間では濃度の変化はきわめておこりにくいことを意味している。しかし、汚染物質が徐々に蓄積され、その濃度レベルに上昇の徴候が現れたときには、その時間・空間的な規模の大きさからもわかるように、自然の力に頼る以外には清浄な海の環境へ戻す手だてはなく、人間のライフ・サイクルを超えた長い時間を要する。さまざまの起源をもつ汚染物質が海洋環境で少しずつ蓄積を続けることにより生物生態系にどのような影響が現れるかを予測し、汚染物質の付加を防止するための対処に遅れを生じないように絶えず監視を続けることが、健全な海洋環境を守るために必要である。[鈴置哲朗]
海洋汚染の対象物質
すでに直接間接に海洋環境に入り、外洋の表面水や、ときとして深層にまで及んでいるものを含めて、環境になんらかの影響を及ぼすと考えられる物質には次のようなものがある。 〔1〕人工放射性元素 核兵器、原子力発電など原子力エネルギーの多方面にわたる利用に伴って、いくつかの核分裂生成核種(3H,90Sr,137Cs,144Ceなど)、誘導放射性核種(14C,54Mn,60Coなど)、超ウラン元素(Pu,Np,Cmなど)といったさまざまの人工放射性元素が現在、地球上で常時生成されている。これらの核種は、ウラン鉱の採掘とその精錬、核燃料としての原子力発電所での使用、使用済み核燃料の再処理という核燃料サイクル中の各過程から漏出して、環境における濃度レベルを今後も徐々に高める可能性がないとはいえない。また、原子力施設の事故に伴う大量の高レベル放射能の放出は、イギリス(ウィンズケール、1957年)、アメリカ(スリーマイル島、1979年)、旧ソ連のウクライナ(チェルノブイリ、1986年)および日本(福島、2011年)での原子力発電所の事故にも見られるように、程度の差はあれ重大な環境破壊をもたらすことを世界に知らしめた。一方過去には、ソ連による高レベル放射性廃棄物の日本周辺海域への不法投棄などの事例もあり、核物質の処理と管理については使用の前後を問わず今後の慎重かつ国際的な監視が必要である。また、超ウラン元素とそれらの化合物は化学的にも毒性の強い物質である。プルトニウムは現在でも地球上で広く大量に核兵器や核燃料として輸送や貯蔵をされており、新たな汚染源となることが憂慮される。 〔2〕石油 現在、年間およそ300~400万トンの石油がさまざまな形や経路で海洋環境に流入していると推定されている。エネルギー源として、また石油化学工業の原料としての石油消費量の増大に伴う海上輸送量や陸上貯蔵・精製施設の増加、また海底油田の開発などの結果、海洋環境への流入量は今後急速に減少するとは考えられない。また、タンカー、海洋油井あるいは陸上施設の事故の場合には、これまでの多くの事例が示しているように一度に大量の原油などが流出し、周辺の環境にとくに深刻な打撃を与える。海洋環境に入った石油は、油膜あるいは油塊として海面上に浮遊するもの、海水中に溶解・分散するもの、および海底に沈積するものなど多様な形で存在しながら徐々に風化する。原油は数千の異なる性質をもつ化合物から構成されるが、その構成成分のなかには、多環芳香族炭化水素のように生体にきわめて悪い生理作用を及ぼす物質が含まれている。しかもこれらは他の構成成分に比べてきわめて安定であり、過去に汚染された海域の底質中にはかなりの量が残存し、海底の侵食などによってこれらが再溶出する。そのために慢性的な油汚染を生じ、周辺の魚介類や海藻などに大きな影響を与えている。世界中の多くの外洋に面する海浜は漂着油塊によって汚染され、魚介類の汚染や海岸利用の障害などの深刻な問題を生じている。海面上に拡散している油膜は、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)やポリ塩化ビフェニル(PCB)などさまざまの人工有機化合物を膜中に濃縮したり、また、海水の蒸発や大気―海洋間の物質・エネルギー交換などを妨害したりする。石油の海洋における移動や拡散などの物理的な機構や、生物への蓄積、化学的な分解過程など、流入後の消長についてはまだよくわかっていない点が多い。 〔3〕人工有機化合物 過去に大量に使用されたDDT、PCBなどの有機塩素系化合物が、海水中にも普遍的に存在する。濃度分布は一様ではなく、先進工業国の分布に対応して北半球中緯度海域で比較的高濃度の汚染が認められている。これらは過去に農薬や一般家庭での殺虫剤として、また熱媒体、絶縁剤、添加剤などとしてともに大量に利用されたものである。日本や欧米の諸国ではこれらの製造および使用はすでに禁止され、より安全性の高い代替物質を使用しているが、それでも一部途上国では農業目的として、また、マラリア対策として年間かなりの量のDDTが現在なお使用されている。これらの物質はきわめて安定した化合物である上に、さまざまな残留毒性をもつことが指摘されている。かなりの部分がいまなお陸上にも残存し、それらが河川や大気を通じて海洋へ流入している。海水中の濃度が平均0.1ppt(1兆分率)程度であるのに対して、海洋生物中の濃度はppb(10億分率)からppm(百万分率)つまり1万倍から1000万倍の範囲でこれらの物質を体内に蓄積していることが知られている。また、これらは食物連鎖によって、たとえば、プランクトン→魚類→海産哺乳(ほにゅう)動物(クジラ、アザラシなど)の順でppmレベルまで濃縮される。とくに、生体内では油脂中に選択的に濃縮される。農業生産における殺虫剤の使用状況をみると、より高い収量を得るために先進国、途上国を問わず、かなりの量が依然として利用されている。とくに日本では収量のほぼ2倍の殺虫剤が使用されている。これら代替物質についても今後の十分な監視が必要であろう。塩素を含む有機化合物については生態系への新たな影響が顕在化しはじめている。 (1)ダイオキシン類 ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、PCBの一種であるコプラナーPCB(Co-PCB)などを含めた一群の有機塩素系化合物の総称であり、これらのうち約30種の異性体が毒性の評価対象とされている。加熱、燃焼、焼却などの過程や化学合成過程で生成される副生成物の一つで、非意図的生成化学物質ともよばれている。その毒性は急性致死毒性、催奇形性、発癌(はつがん)性、また、生殖障害や免疫抑制などによって特徴づけられるが、その程度は化合物それぞれによって異なる。これらの発生源は多様であるが、そのうち廃プラスチックを大量に含む都市ごみや産業廃棄物の焼却炉から発生するものが総排出量のおよそ80%を占めている。これらは排煙とともに環境に放出され、大気を通じて移動拡散する。すでに土壌、底質、魚介類、ヒトの体脂肪を中心に広範に検出されている。今後の土壌、河川、海洋での汚染の状況とその推移に注意深い監視が必要とされている。 (2)内分泌系(エンドクリン)攪乱(かくらん)物質 環境ホルモンあるいはホルモン類似化学物質ともよばれている。ダイオキシンなどの有機塩素系化合物、トリブチルスズなどの有機金属化合物、フタル酸エステル、アルキルフェノール類、ビスフェノールAおよびトリアジン系除草剤など数十種類以上の化学物質の総称である。これらはホルモン類似の構造をもつためにホルモン受容体に誤って結合しホルモン活性に異常な変化を与えることが知られている。また、物質代謝の攪乱や免疫系の阻害、発癌作用などをもたらすとされている。ヒトの乳癌発生率の上昇や精子数の減少、さらにある種の鳥類、魚介類など野生生物にみられる生殖機能障害はこれらの化学物質によるものといわれている。生物のホルモンシステムを攪乱するこれらの物質が環境に放出された結果、生殖や発育などというヒトや他の生物にとって重要な自己の保存や種の存続が危うくされるのではないかと危惧(きぐ)されている。現状では環境中での分布や生物への影響の実態はまだ明確でない。これらの物質のモニタリング体制の整備、生理作用とそのメカニズムの解明、健康への影響評価の確立が急がれる。 〔4〕重金属 水銀HgやカドミウムCdをはじめ、銀Ag、銅Cu、亜鉛Zn、ニッケルNi、クロムCr、スズSn、鉄Fe、マンガンMn、アルミニウムAl、鉛Pbなどがある。これらは極微量の場合を除けば元素の形でも化合物の形でも例外なく有害である。一般に生体中に取り込まれやすく、銅Cu、亜鉛Zn、カドミウムCdなどのように環境に比べて1万~10万倍も生体中に濃縮されるものもある。また重金属ではないが、ヒ素As、アンチモンSb、セレンSeなども環境汚染の面からみると、この仲間に加えてもよい。重金属などについては、風化など自然の過程のなかで河川により海に運ばれる年間量よりも、鉱業としての年間生産量のほうがはるかに大きくなっている。これらの金属は、一方では河川や工場廃水を通じて沿岸から、他方では化石燃料の燃焼やセメント製造過程での石灰の焼成の結果として大気経由で外洋へ移送されている。産業活動などにおいて重金属は必要不可欠な資源であり、今後も連続的に使用されよう。 〔5〕固形の廃棄物 海浜、海面、海底には、プラスチック、ガラス、金属など海洋環境では急速に分解できない生活・産業廃棄物が浮遊または沈積している。現在年間数百万トン以上のこれら廃棄物が海洋へ投棄されていると推定される。海洋環境への影響は明確に把握されていないが、少なくともレジンペレット(プラスチック製品の中間材料で粒状のもの)や発泡スチロールの破片や漁網など海洋環境ではほとんど分解されないで浮遊を続けるプラスチック類が、海鳥、ウミガメ、アザラシなどの海洋生物にさまざまな障害を与えていることはよく知られている。海底での固体廃棄物の蓄積は、海水と堆積物の間の化学物質の交換を妨げ、海底生物の活動に大きな影響を与えるなど、投棄量の増大は海底の生物生態系に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。 〔6〕富栄養化による水質汚濁 (1)赤潮 陸水によってリンや窒素の化合物などが海水に付加されることによる富栄養化と塩分の低下に、日射による海面水温の上昇、静穏な海況など海面付近の環境要因が重なって、鞭毛藻(べんもうそう)類、珪藻(けいそう)類などの植物プランクトンが異常に発生、増殖して海水が赤褐色に見える現象である。これら植物プランクトンは魚のえらを閉塞(へいそく)させることによる呼吸障害、また、死滅分解過程での毒物の生成や大量の酸素消費による酸欠状態などをもたらし魚を死滅させる。 (2)青潮 海底の窪地(くぼち)(浚渫跡や航路など)に沈積したプランクトンの死骸(しがい)や汚泥中の大量の有機物がバクテリアによって分解される際に酸素が消費され、硫酸還元により硫化水素を生じる。風による湾外への離岸流が生じると、海底のこの水塊がそれを補うために湾奥部の表面に浮上する。このとき硫化水素が酸化されて硫黄(いおう)や多硫化物に変化し、海水が乳青色や乳白色に見える現象である。異臭を発し、透明度はほとんどなく、酸欠状態により魚貝類を死滅させる。 (3)富栄養化をもたらす陸上からの汚染物質付加の削減をはじめとする環境保全施策の結果として、近年の赤潮・青潮の発生件数は減少気味である。しかし、このところの赤潮には多種多様なプランクトンが外洋を含む多くの海域で長期にわたって発生するという特徴が現れている。これは長い年月にわたって汚染物質を蓄積し続ける海洋環境に対応する生物的な変化の指標の一つという指摘もある。 〔7〕熱汚染 重工業関連の工場や発電所などの冷却水として大量の水が利用されている。大型の火力・原子力発電所における熱から電気へのエネルギーの変換効率は一般に30~50%といわれ、その他の損失分はほとんど冷却水の温度上昇の形で消費されて環境へ放出される。この排水は環境の水温に比べておよそ10℃前後高くなり温排水とよばれている。重工業に用いられる冷却水の場合、総量は少ないが高温の排水が放出される。環境の水温は水生の生物にとってもっとも重要な生息環境因子の一つであるので、温排水による水温環境の変化は、それがたとえわずかであっても生物相に重大な変化をもたらすことになる。[鈴置哲朗]

海洋汚染防止対策

国際的な取り組み
海洋汚染の諸問題は、全地球的な規模で対処しなければならない。増大する環境汚染に対する国際的な動きとして、その後の汚染問題の対処への重要な指針を与えたのがストックホルムで開かれた第1回国連人間環境会議の「人間環境宣言」(1972)である。そのなかで、環境汚染防止のために各国協力の下にあらゆる方法を講じる必要性が述べられた。これを受けて設立された国連環境計画(UNEP)は、大気、海洋など地球環境をあらゆる面からモニタリングする全地球環境監視組織(GEMS=Global Environment Monitoring System)展開の必要性を指摘した。これに対応して、国連傘下のユネスコ(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC=Intergovernmental Oceanographic Commission)、国連食糧農業機関(FAO)の海洋資源諮問委員会(ACMRR=Advisory Committee of Experts on Marine Resources Research)、世界気象機関(WMO)、世界保健機関(WHO)、国際海事機関(IMO)、国際原子力機関(IAEA)、それに前述のUNEPなどは相互の協力のもとに積極的に汚染防止活動を開始した。また、海洋汚染の問題は幅広い分野にかかわるので、汚染の科学的諸問題に関する助言を行う組織として上記各機関合同の専門家グループ(GESAMP)が組織されている。一方、約170か国の参加した1992年の「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」(地球サミット)で採択されたアジェンダ21(地球再生の行動計画)の17章「海洋環境および海洋生物資源の保護と合理的利用」に沿って、具体的な国際協力計画が推進されている。また、1994年の海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)では、「世界のどの国も海洋環境を保護し、保全する義務を持ち、海洋環境の汚染を防止、軽減、規制するための必要な措置をとる」というガイドラインが示された。これに従って海洋汚染防止のための国際的な条約の締結あるいは既存条約の改定が進められ、各国の国内法の整備もなされている。UNEPの主導による海洋環境保全の地域的な取り組みとしては、日本、韓国、中国およびロシア4か国により黄海および日本海を対象海域とする「北西太平洋地域における海洋および沿岸の環境保全・管理・開発のための行動計画」(NOWPAP=North-west Pacific Action Plan)が、1994年に世界で12番目のものとして始まっている。[鈴置哲朗]
国内における取り組み
日本の水質汚濁に対する法律的な規制は、水質保全法と工場排水規制法(1958)に始まる。さらに、進行する公害への対策推進のために、公害対策基本法(1967)、水質汚濁防止法(1970)が制定された。海洋の汚染防止に関しては、廃棄物その他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関するロンドン・ダンピング条約(1972)、また船舶からの汚染を禁じたマルポール条約MARPOL73/78(1973、1978、1997)に対応して、1970年(昭和45)に「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(海洋汚染防止法)、「廃棄物の処理および清掃に関する法律」(廃棄物処理法)などが制定されている。その後も国際的な動きに対応して、公害対策基本法を統合した環境基本法(1995)など、公害防止対策の拡充のために法律の制定や改定を行って環境保全行政全般の充実強化が図られている。[鈴置哲朗]
海洋汚染監視の現状と将来
国際条約や国内法にのっとって海洋環境にかかわりの深い国の行政機関、地方自治体、試験研究機関、大学、民間ボランティアなどによって海洋汚染の観測、調査研究、技術開発、防止対策、汚染物質防除体制整備、監視取締りなどが多岐にわたって行われている。たとえば、国土交通省では海洋汚染防止法に基づいて、気象庁が海洋汚染の防止および海洋環境の保全のために日本近海および北西太平洋の海洋バックグランド汚染観測を、また、海上保安庁が日本近海、主要湾などを対象として周辺海域における廃棄物等による海洋汚染の監視取締りのための調査・観測を、環境省は水質汚濁防止法、環境基本法などに基づいて沿岸域を中心とした海洋汚染の調査を、農林水産省(水産庁)も漁場、海浜など水産資源の環境保全の観点から調査を実施している。調査・観測の結果はそれぞれの年次報告などで公表されるとともに、国際機関にも逐次報告されている。日本など先進諸国では環境保全のための法律や防止技術が整備され、また汚染物質排出の厳しい規制により、状況は確実に改善の方向に向かっている。ただ、今後出現の予想される新たな汚染の早期検出のためにはより充実した海洋環境の調査・観測・監視の継続が必要である。途上国では今後、環境保全にかかわる体制の整わないままの急速な経済発展によりさまざまの公害が発生し、有害物質の排出が海洋環境へも深刻な影響を与える可能性がある。南北から黒潮や親潮などの海流が到達している日本では、今後も近隣諸国からの越境汚染に対して周辺の海洋環境の十分な監視を行うことが重要である。[鈴置哲朗]
『川崎健著『海の環境学』(1993・新日本出版社) ▽原島省・功刀正行著『海の働きと海洋汚染』(1997・裳華房) ▽東京大学海洋研究所DOBIS編集委員会編『海の環境100の危機』(2006・東京書籍) ▽功刀正行著『海の色が語る地球環境――海洋汚染と水の未来』(PHP新書)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

海洋プラスチックごみ汚染問題(外務省)

大阪ブルー・オーシャン・ビジョン

G20大阪サミットにて共有された,海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向け,安倍総理は同サミットにおいて,日本は途上国の廃棄物管理に関する能力構築及びインフラ整備等を支援していく旨を表明した。そのため,日本政府は,(1)廃棄物管理(Management of Wastes),(2)海洋ごみの回収(Recovery),(3)イノベーション(Innovation),及び(4)能力強化(Empowerment)に焦点を当てた,世界全体の実効的な海洋プラスチックごみ対策を後押しすべく,「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げる。
同イニシアティブの下で,以下の具体的な施策を通じ,廃棄物管理,海洋ごみの回収及びイノベーションを推進するための,途上国における能力強化を支援していく。

1 二国間ODAや国際機関経由の支援等の国際協力

  • 途上国に対し,(1)廃棄物法制,分別・収集システムを含む廃棄物管理・3R推進のための能力構築や制度構築,(2)海洋ごみに関する国別行動計画の策定,(3)リサイクル施設や廃棄物発電施設を含む廃棄物処理施設などの質の高い環境インフラの導入や関連する人材育成のため,ODAや国際機関経由の支援を含め,二国間や多国間の協力による様々な支援を行う。
  • 世界において,2025年までに,廃棄物管理人材を10,000人育成する。
  • ASEAN諸国に対し,自治体,市民,ビジネスセクター等の非政府主体の意識向上,海洋ごみに関する国別行動計画の策定,廃棄物発電インフラを含む適切な廃棄物管理及び3Rに関する能力構築等の「ASEAN+3海洋プラスチックごみ協力アクション・イニシアティブ」に基づく支援を実施する。
  • 東南アジア地域での海洋プラスチックごみのモニタリング実施に向けた支援,人材育成を実施する。

2 日本企業・NGO・地方自治体による活動の国際展開

  • 廃棄物処理関連施設等のインフラ輸出や,プラスチック代替品やリサイクル技術等に関するイノベーション・技術導入の支援等のため,産業界と連携した国際ビジネス展開や,NGO・地方公共団体との連携を通じ,日本企業・NGO・地方公共団体による活動の国際展開を推進する。
  • 日本の化学関係の業界団体が設立した海洋プラスチック問題対応協議会(JaIME)によるアジア新興国におけるプラスチック廃棄物の管理向上の支援や,日中プラスチック加工関連業界の協力覚書に基づくペレット等の飛散・流出防止支援等の産業界による国際協力を促進する。

3 ベスト・プラクティスの発信・共有

  • 関連の国際会議(国連海洋会議,アジア太平洋3R推進フォーラム等)やイニシアティブ等を通じ,廃棄物管理,海洋ごみの回収及びイノベーションに関する日本の官民の取組におけるベスト・プラクティス(経験知見・技術)を発信・共有する。
  • ASEAN諸国に対し,「海洋プラスチックごみナレッジセンター」の設立を通じて,海洋プラスチックごみ対策に関する知見の共有を促進する。
G20大阪サミット首脳宣言(PDF)

森林破壊問題

人間の手によって森林の皆伐または間伐が行なわれた結果,森林が減少・劣化すること。乾燥地域では水不足と林地の砂漠化を引き起こし,降水量の多い地域では山崩れや洪水を頻発させる。森林破壊は地球の土地利用における最大の問題の一つである。
森林破壊の規模は従来,木材用の伐採や,耕作地や放牧地として人間が利用するために森林を伐採した面積などをもとに推計されてきた。だがそれ以外にも,部分的な木材の切り出しや山火事によって,森林構造を大幅に変えてしまうほど木の数が減少することがある。また工業活動による酸性雨も森林破壊の原因の一部とされる。
国連食糧農業機関 FAOの推計によると,世界の森林面積は年間約 130万km2の割合で減少している。地域によっては,森林管理を強化したり,自然保護区を創設したりした結果,21世紀初頭には減少速度がゆるやかになったところもある。最も破壊が進行しているのは,多様な森林が存在する熱帯地方である。熱帯林減少のおもな原因は焼畑農耕である。小規模農家は森林の一部を焼き払って開拓し,灰を肥料として作物を育てる。通常,その土地で耕作できるのは 2,3年にすぎず,その後はその土地を放棄してまた新たな森林の一部を焼き払う。また東南アジアや熱帯アフリカ,南北アメリカの森林では,アブラヤシ・プランテーション開発(→プランテーション農業)を目的とした焼畑も広く行なわれている。そのほかの森林破壊の要因としては商業的伐採や,牧畜場やゴム(→パラゴムノキ)など経済価値の高い樹木のプランテーションの開発などがある。 一部の地域では森林を伐採したあとに再植林が行なわれている。将来利用するために伐採地を補充する目的で行なわれることもあれば,生態系回復の手段として行なわれることもあり,後者の場合には再生地域は保護林となる。また,材木や紙の生産のために単一樹種のみを植林するプランテーションも多い。その多くはユーカリや成長の早いマツで,その土地原産ではない場合がほとんどである。FAOの推計によれば,そうした人工林の面積は地球全体で約 130万km2に上る。再植林の取り組みの多くは,国際連合や非政府組織 NGOの指導や資金援助を受けて行なわれている。たとえば,ニュージーランド政府は 2017年,国内に年間 1億本以上の木を植えるプロジェクトをスタートさせた。ほかにも,インドでは同年,市民がわずか 1日で 6600万本の木を植えるという植林プロジェクトが実施された。 木は成長するときに大気中の二酸化炭素 CO2を吸収する。つまり森林は,樹木やその他のバイオマスのなかに炭素を隔離するが,森林が燃やされると,炭素は地球の気候を変動させる可能性をもつ温室効果ガスとなって大気中に放出される。加えて,地球上の貴重な生物多様性のほとんどは森林,特に熱帯林に存在する。アマゾン川流域のような湿性熱帯林には,陸上生態系の動植物の種が最も集中しており,おそらく地球上の全生物種の 3分の2はこれらの熱帯林にだけ生息すると考えられる。森林が減少するにしたがい,ますます多くの種が絶滅に追い込まれるおそれがある。もっと狭い地域的なレベルでも,森林の皆伐や選択的伐採,森林火災は相互に影響しあう。選択的伐採によって,密集した多湿の森林はまばらで乾燥したものとなり,火がつきやすくなる。結果としてその森林は,開拓された隣接の農地で行なわれる焼畑からの類焼や,干魃による致命的な影響を受けやすくなる。さらに,森林伐採後に商業的価値の高い樹木を植林した森は生物多様性に乏しく,その土地固有の絶滅危惧種を含む動植物の生息地としての役割を果たすことができない。

生物多様性

地球上の一つの場所で見出される生命の多様さ,あるいは地球に存在する生命全体の多様さ。多様さの一般的な尺度である種の豊かさは,ある地域における種の総数を表す。ただ,種の数は地域間の違いをある程度表すことはできるが,多様性の唯一の尺度とはならない。生物多様性とは,種の多様性だけでなく,種がもつ遺伝子の多様性や,種がつくり出す生態系の多様性を網羅する概念である。種の多様性は,種によってその重みが異なる。その評価基準の一つは,その種の分類学上の上位群(属,科,目,綱,門など)の多様性である。ある属はたった一つの種しかもたず,別の属は数百もの種をもつ。どちらの属に含まれる種がより重要であるかは,こうした種の多さを考慮しながら判断することになる。種の多様性はまた,希少な種が生息する環境に固有の多様性という観点から評価される。地域によってはそこにしか生息しない固有種があり,生息域が狭い固有種は,より広い地域に生息する種よりも人間活動の被害を受けやすい。種の遺伝子の多様性は,同じ種であっても遺伝子によりさまざまな形質の違いを生じさせる。また個体ごとに,異なる病気に対する耐性をもたらす可能性がある。生物多様性は,種が形成するさまざまな生態学的共同体(→群集)をも包含する。一般的に,森林と草原からなる地域の生態系は,異なる種が存在するため,森林だけからなる地域よりも多様化しているとみられる。生態系の多様性を定量化する方法は,対象地域のさまざまな生態学的共同体を記録することである。

生物多様性条約

生物多様性の保護を推進し,遺伝資源の持続可能な利用と衡平な配分の実現を目的とする国際条約。生物の多様性に関する条約ともいう。1992年5月,ケニアのナイロビで開催された生物多様性条約合意文言採択ナイロビ会議においてナイロビ最終文書が採択され,策定作業が完了した。1992年6月に開催された環境と開発に関する国連会議(地球サミット)の期間中に署名が求められ,同 1992年12月に発効した。2010年6月現在 192ヵ国およびヨーロッパ連合 EUが締約している。日本は地球サミット会期中に署名。アメリカ合衆国は未締結。本条約のもと,敏感な生態系の維持,劣化した生態系の立て直し,絶滅危惧種の動植物を守る法律の整備によって,遺伝資源を保護することが求められる。加えて,発展途上国が国内の生物資源保護計画の費用を負担できるよう,途上国への資金供与が求められる。本条約の運営機関である締約国会議は,海洋・沿岸域,内陸水路,森林,山間,農地,乾性・半湿潤地といった生態系の主要な形態各種における遺伝資源保護の目標と戦略を定めるために課題別の計画を策定した。
( 出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 )